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富山家庭裁判所高岡支部 昭和49年(少ハ)2号 決定 1974年11月14日

少年 M・Y(昭二八・六・一三生)

主文

五〇年二月二一日まで特別少年院に戻して収容する。

理由

(申請の要旨)

少年は、昭和四九年一〇月八日愛知少年院を仮退院し、母M・Z子の許に帰住し、翌九日富山保護観察所に出頭してその保護観察下に入り、担当保護司○口○尾の斡旋で同月一二日より○越○建株式会社においてブルドーザー運転見習として稼働していたが、同月一五日兄M・Kより自動車学校入学金八万円を借用するや、同月一七日上記会社に出勤するも相手の運転手が休んで仕事にならないことから、かねて計画していた名古屋在住のA子(二〇年位)を訪ねるべく上記金員をもつてその儘無断で職場を飛出し家出し、名古屋市内に於て旅館、ホテル等に止宿徒遊し、またA子の友人B子と岡山に旅行したり、所持金が少なくなつたとしてC(昭和四九年二月二五日愛知少年院退院)の自宅を訪ねる(同人不在)などした。かかる少年の行動は、本件仮退院に際して少年が遵守することを誓約した犯罪者予防更生法三四条二項に規定された一般遵守事項中の一号(一定の住居に居住し、正業に従事すること)、二号(善行を保持すること)、四号(住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ保護観察を行う者の許可を求めること)、及び同法三一条三項の規定に基づき中部地方更生保護委員会第二部が定めた特別遵守事項中の四号(家出放浪や無断外泊をしないこと)、第六号後段(まじめに辛抱強く働くこと)に、それぞれ違背していることは明らかである。このように少年は仮退院後一〇日にして家出所在不明となり自ら更生に努力しようという意欲は全く認められずこのまま推移するならば再非行に陥るおそれは極めて大なるものがあり、最早社会内処遇である保護観察による改善更生は困難であり、施設内処遇に再度移行させ、自己反省の機会を与えることが必要と思料されるので、少年が二三歳に達するまで少年を少年院に戻して収容されるよう申請する。

(当裁判所の判断)

当裁判所の調査及び審判の結果によれば、少年の仮退院後の行動につき、前記申請の要旨記載の事実の存在を肯認することができる。なお少年が家出をした事情は次のとおりである。少年は中等少年院(昭和四六年二月二六日送致)を仮退院(昭和四七年八月三一日)して安城市に住んでいたころ、職場の同僚のDからA子、B子を紹介され、四人でよくドライブに出かけたりして遊んだことがあつたが、少年とA子とは特に深い関係を結ぶに至つたこと、少年はその後特別少年院送致となり(昭和四八年五月二二日。同年五月二六日少年院法一一条一項但書による収容継続決定、昭和四九年五月八日収容継続決定(昭和五〇年二月二一日まで))、同女と音信不通になつてしまつたため、少年院出院後は是非同女に会つて従来の経過を説明し同女との関係を復活したいと願つていた。少年は、昭和四九年一〇月八日特別少年院を仮退院となり、ブルドーザーの運転助手として働いていたが、兄から自動車学校に入学をすすめられて入学金として同人より八万円を借りたところに、同月一七日相手の運転手が欠勤して仕事ができなくなつたという事情が重なつたので、従来の計画を実行に移す好機とばかり遵守事項を熟知していたにもかかわらず、名古屋に行つてA子に会い、又同所で職をみつけようという気持ちから、同日無断で職場を飛び出し家出してしまつた(しかし、少年は結局A子と会うことができず自棄になつてB子と岡山で遊んだり、名古屋市内や岐阜市内をひとりで遊びまわつた)、というのである。従つて少年において少年院仮退院後の遵守事項違反があつたことは明らかである(ただし、一般遵守事項二号に違反したとまでの証拠はない)。

ところで少年は、知能は準普通域にあるが意志薄弱で自己抑制力に乏しく、目先の欲求を行動に直結させてしまう性格である。

少年の父親は所在不明(富山市内で女性と同棲しているようである)で、母は少年の行動を規制できるだけの力量に欠け、兄も少年に対し不信感をもつており、ともに少年が少年院に戻るのも止むなしとしている。

そうすると現在の少年の性格では再犯に陥るおそれが多分に看取されるうえ家庭事情も上記のとおりであるから、少年を少年院に戻して再度矯正教育を施すことは止むをえないものがあるといわざるをえないが、少年は前記のとおり少年院に通算約二年一〇月も在院しており、いわゆる施設ずれといわれる弊害も見えはじめているかの危惧がもたれないでもないとともに、知能も準普通域ということでさほど低いとはいえないことや、仮退院当時の矯正程度等諸般の事情を考慮すると、向後約三か月の収容で矯正教育の実をあげうるものと考えられる。しかるところ少年は、仮退院後の保護観察期間を考慮したとはいえ、昭和五〇年二月二一日まで収容を継続されていたものであるから、本件戻し収容の期間も同日までとするのが相当であると認められる。

よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年法二四条一項三号少年院法二条四項により主文のとおり決定する。

(裁判官 肥留間健一)

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